車内の環境を最高の視聴室に変える仕事
カーオーディオインストーラーとは、単にカーステレオやスピーカーを交換するだけの作業員ではない。自動車の車内は、エンジン音やロードノイズが響き、ガラスによる音の乱反射が起き、さらにリスナー(運転席)が左右のどちらかに偏って座っているという、オーディオ再生においては極めて悪条件な環境である。
こうしたネガティブな要素を、物理的な加工技術と電気的な知識、そして聴覚を駆使して克服し、車内を極上のリスニングルームへと作り変えるのが、カーオーディオインストーラーの仕事である。顧客の予算や音楽の好みに合わせ、スピーカー、アンプ、プロセッサーなどの機器を選定し、その性能を100%引き出すためのシステム全体を構築するプロフェッショナルだ。
音響空間を作る造形技術
インストーラーの仕事の半分は、車の内装を加工する造形にあるといっても過言ではない。良いスピーカーを買ってきてポン付けしただけでは、良い音は鳴らない。スピーカーの土台となるドアの強度を高め、余計な振動を抑えるデッドニングが不可欠である。
また、スピーカーを固定するためのインナーバッフルを木材や金属から削り出して製作したり、高音域を担当するツイーターを最適な角度で設置するために、フロントガラス横の柱(Aピラー)をパテやFRP(繊維強化プラスチック)で成形し、純正のような美しい仕上がりに加工したりする技術も求められる。
トランクにアンプやサブウーファーを美しくディスプレイするカスタムインストールでは、LED照明やアクリル加工のセンスも問われるなど、職人的な手先の器用さが必須だ。
高度な配線技術と電装知識
インストーラーにとって最も重要とも言えるのが、電気に関する深い知識と配線技術である。カーオーディオにおいて、電気は血液そのものだ。アンプに安定した大電流を供給するための電源ケーブルの引き回し一つで、音の力強さは激変する。
しかし、車内にはオルタネーターやコンピュータなど、オーディオ信号に悪影響を与えるノイズの発生源が無数に存在する。電源ケーブルと音声信号ケーブルを近づけすぎないように配線ルートを設計したり、アースポイントを適切に処理して電気抵抗を減らしたりと、目に見えない電気の流れをコントロールする知識が求められる。
さらに近年の自動車は、CAN-BUS通信やアイドリングストップ機構、ハイブリッド・EVシステムなど、電装系が高度に電子制御されている。どこから電源を取ればいいかこの線を切ってもエラーが出ないかを判断するには、オームの法則などの基礎的な電気知識に加え、最新の車両配線図を読み解く能力が不可欠だ。安易な配線作業は、車両火災やコンピュータの破損につながるため、インストーラーには整備士と同等かそれ以上の電装知識が求められるのである。
DSP調整という特殊技能
取り付けが終われば完了ではない。最後に待っているのが、DSPを使った音響調整である。運転席に座った際、左右のスピーカーからの距離差によって生じる音のズレを補正するタイムアライメントや、周波数ごとの音量を調整するイコライザーを駆使して、ダッシュボードの上にボーカルが浮かび上がるような音像を作り出す。この調整技術こそがインストーラーの腕の見せ所であり、顧客を感動させる魔法の正体である。
機械工学、電気工学、そして音響学。これらを統合し、一台の車を作品へと昇華させるのが、カーオーディオインストーラーという職業の醍醐味である。