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マフラー製作は管楽器を作る作業に似ている
自動車の排気システム(マフラー)製作は、単に排気ガスを後ろへ流すパイプを通すだけの作業ではない。
エンジンの特性に合わせたパイプ径の選定、管長の調整、そして素材の響きを計算し、理想のパワー特性と官能的なサウンドを作り出す、極めてクリエイティブかつ論理的なエンジニアリングである。
ワンオフマフラー製作や既製品の選定において重要となる、技術的な要点を解説する。
素材が音と性能を決める
マフラーに使われる素材は、重量、耐久性、そして排気音の音質に決定的な影響を与える。代表的な2つの素材には明確な違いがある。
ステンレス(SUS304)
最も一般的で、耐久性とコストパフォーマンスのバランスに優れている。錆に強く、加工もしやすいため、複雑な取り回しが可能であるのも特徴だ。
音質は肉厚があるため振動が抑えられ、低音の効いた重厚でマイルドなサウンドになりやすい。ただし、チタンに比べると重量があるため、軽量化への貢献度は限定的である。
チタン
レース用パーツとして重宝される素材であり、最大の特徴は圧倒的な軽さ。ステンレスの約半分程度の重量で製作できるため、運動性能の向上に直結する。
また、金属が硬く薄肉化できるため、パリッとした乾いた高音を奏でるのが特徴である。熱が入ると美しい青色の焼き色が付くのも魅力だが、非常に高価であり、溶接には高度な技術と専用の環境が必要となる。
パイプ径と長さの方程式
マフラー製作において最も頭を悩ませるのが、メインパイプの太さと長さの決定である。太ければ太いほどパワーが出るという単純なものではない。
パイプ径の選定
パイプを太くすれば排気抵抗が減り、高回転域でのパワーは向上する。しかし、低回転域では排気の流速が落ちてしまい、エンジンの燃焼室から排気を吸い出す掃気効果が弱まるため、トルクがスカスカになってしまう。
逆に細すぎると、低速トルクは出るが高回転で詰まってしまう。排気量や過給機の有無に合わせて、最適な流速を維持できる径を選定しなければならない。
管長の調整
パイプの長さ(管長)も脈動効果に影響する。一般的に、長く稼げば中低速トルク型に、短くストレートにすれば高回転型になる傾向がある。
限られた車体下スペースの中で、いかにトグロを巻いて長さを稼ぐか、あるいは抵抗を減らすために直線的にするか、レイアウトの妙が試される部分である。
公道走行のための適合基準
どれほど素晴らしい音とパワーを実現しても、公道を走る車両であれば車検に適合していなければただの違法改造車である。製作時には以下の基準をクリアする必要がある。
近接排気騒音
年式によって基準値は異なるが、一般的にマフラー出口付近で計測される音量が規定値以下でなければならない。経年劣化で消音材が痩せて音が大きくなることも考慮し、新品時は余裕を持った消音設計が求められる。
最低地上高
マフラーのパイプやサイレンサーが、地面から9cm以上確保されている必要がある。パイプ径を太くしたり、レイアウトを複雑にしたりすると、地面と干渉しやすくなるため注意が必要だ。
はみ出し禁止
マフラーの出口が車体からはみ出していたり、鋭利な形状をしていたりすると車検には通らない。出口の端部に丸みを持たせるなどの対策が必要となる。
触媒の有無
排気ガスを浄化する触媒装置を取り外すことは厳禁である。競技用と割り切る場合を除き、公道用マフラー製作では触媒以降(キャタバック)での交換・製作が基本となる。
マフラー製作は、物理法則と法規制の中で、いかにドライバーの感性に響く音と加速を作り出すかという、エンジニアのセンスが問われる仕事である。